とどまる、感じる、ひらく

十数年ぶりに授業参観に行った話

2026年02月13日 12:26

 先日の金曜日の午後、娘から電話がありました。会社にいるはずの時間なのに、どうしたんだろう……と思いつつ電話に出ました。 

 娘のところには、小学校1年生の双子の女の子がいます。名前はキキとララとしておきましょう。「急なお願いで悪いんだけど」と切り出した娘の話によると、明日の土曜日は小学校の授業参観なのに、ララがインフルエンザになってしまったとのこと。父親も出張で不在だし、ララをひとりにできないので……というので、「私がララちゃんとお留守番してればいいのね」と言ったところ、「いや、キキの授業参観に行って!」というのです。「えーー私が学校に行くの⁉」と問い返すと、「だって、お母さんにララのインフルエンザが移ったら、私が気にしちゃうもの」というので、それもそうだなと思い、しばらく逡巡したものの引き受けました。

 当日の時間割や校内の配置図などをLineで送ってもらい、何時頃行けばいいかなど相談して電話を切ったものの、胸のあたりがなんとも複雑な気持ちに覆われていました。 

 というのも、私の子どもたちが小・中学生だった頃、実のところ学校に行くというのは、できるだけ避けたいミッションのひとつだったからです。

 

 思い出してみると、自分が子どもの頃は、とくに学校が嫌いだったわけではありませんでした。学校は行くもので、楽しいことも嫌なこともあるけど、まあおおむねなんとかやっていけていたと思います。小学校1年生の頃は給食が食べられなくて大変な思いをしましたが、大きくなるにつれて、いろんなことをうまくこなせるようになった、というか、ならざるを得なかったのだと思います。学校に行かないという選択肢がなかったのですから。 

 それが、一番上の娘が小学校に上がって、学校というものに再び関わるようになってから、事あるごとに違和感を感じたり、なにか「学校」という名の集団に恐れのようなものを感じるようになってきました。そして気づいたのは、実は子どもの頃も同じような感覚が自分の中にあったということ。けれども、できるだけその感覚に気づかないようにして自分に隠していたということでした。 


 娘は1年生の頃から、ひとりでいるのが好きなところがあったので、友だちとうまくやれなくなるのでは……と心配した担任の先生にあれこれ言われました。もちろん心配して言ってくれていることはわかっているのですが、そのときは娘の人格を否定されたような気がしてしまって、担任の先生に対し不信感を抱いたのを覚えています。今になって思い出すと、やはり娘に自分を投影して、自分が否定されたような気 

持ちになっていたのだとわかります。 

 その後もいろいろありながらも、2年生以降は理解のある先生に担任を持っていただけたこと、また、娘の下の息子ふたりはそれなりに楽しそうに学校生活を送っていたように見えたこともあり、私もなんとか学校嫌いにならずにやっていけていたと思います。 

 けれども、娘が中学校で不登校になってしまったことから、私の学校嫌いも一気に加速してしまい、一番下の息子が義務教育を卒業したときは、心の底からほっとしたことを覚えています。

 

 学校と縁が切れて、すっかりそんな気持ちも忘れていたのに、「キキの授業参観に行く!」というミッションをお願いされた途端、そんな気持ちがもやもやと立ちのぼってくるとは。

 

 夕方、再び娘からLineがあり、「帰ってきたキキに、明日はゆりおばあちゃんが来てくれるって言ったら、喜んでたよ」とのこと。子どもには「自分のことを見てもらいたい、認めてもらいたい」というニーズがあるのだから、できるだけそのニーズを満たしてあげたい。それと同時に「自分の気持ちもちゃんと感じてあげよう」と思い、当日は、緊張感とともにいろんな気持ちを感じながら出かけました。もちろん、キキちゃんの笑顔が見たいというのが一番のモチベーションになっていましたが。 

 電車とバスを乗り継いで娘の家の方に向かいます。バス停で待っていた娘から保護者用の名札を借りて学校に向かう途中もやはりドキドキしてしまいましたが、他にも学校に向かうらしい若いお母さん、お父さんたちを見かけ、その人たちについて学校に入りました。 


 教室につくと、2時間目の道徳の時間でした。窓際から2列目の一番後ろの席にキキを見つけて見ていると、こちらを何度もちらちらと向きます。マスクをしていてわかりにくいかと思い、そっと小さく手を振ると、キキもそっと小さく手を振り返しました。 

 休み時間には私のところに来て、次の国語の時間についていろいろと説明してくれます。国語の時間は「おかいもの」で、キキはアイス屋さんなんだそうです。 

 3時間目が始まり、なぜ国語の時間にお買い物?と思いつつ先生のお話を聞いていると、「ものの名まえ」には、「あつまりの名まえ」と「一つ一つの名まえ」があるとのこと。くだものやさんの「くだもの」が「あつまりの名まえ」で、そこで売っている「りんご」が「一つ一つの名まえ」。 

 ということで、早速それぞれのグループに分かれ、お店の準備が始まりました。机 の上に品物の絵と名前がかかれたカードが並んでいきます。子どもたちは前半と後半に分かれて、お店番とお客さん役を交代で行います。「いらっしゃいませ」という大きな声が飛び交い、一気に子どもたちの喧騒に包まれました。 

 最後には保護者がお買い物をする時間もありました。私はまず、アイス屋さんでキキのおすすめのワンちゃんアイス(バニラ)、駄菓子屋さんでラムネ、動物屋さんでヘビ、楽器屋さんでトライアングル、服屋さんでティーシャツを買いました。ほかには魚屋さんと果物屋さんもありました。どれも色鉛筆で品物の絵が丁寧に描かれたかわいいカードでした。 


 3時間目が終わって、5分間の帰りの会が終わるのを廊下で待ってから、キキと一緒に家に帰りました。キキの小さな冷たい手を包むように手をつないで、小雪のちらつく寒い道をあったかい気持ちで一緒に歩きました。 

 キキのおかげで、私の学校へのイメージが少し上書きされたかな……そんな楽しくありがたい授業参観でした。

 

2026年2月13日 

ゆり