出てきた〈子どもの自分〉を癒す
2025年05月29日 18:16
「自分の今の苦しみや辛さは、いったいどこから来ているのだろう?」と興味を抱きながら、いつものようにセッションを受けるとします。そして、からだを感じているといつもより奥深いところまで感じられ、その奥深いところを丁寧に見ていくとします。そうすると、からだに刻まれている記憶から、例えば、お腹に小さな人が出てくることがあります。その人は、往々にして過去の小さな自分である場合が多いです。
その小さな自分は、幼少の頃の自分であることが多いのです。そして、その小さな子どもの自分に留まって感じていると、自分がその小さな子どもだった時の嫌な感情を思い出し、その感覚・感情を感じることから、「こんなことをされていた」と生々しく過去の記憶が出てくることがあります。
すると、その時にされていたことと、今自分の中で起こっている苦しい出来事がシンクロして、子どもの時のことが今に影響しているのだと気づいたりするのです。
例えば、仕事場でみんなから慕われ、傾聴はできる、発言も的確にするなど、非の打ち所がない人がいるとします。自分は、その人が嫌いではないのに、なぜかその人といると落ち着かない、発言できない、苦しくなってきてしまうなどがあるとします。それをセッションの中でみていくと、小さな子どもの自分が出てくることがあります。その小さな子どもの自分に留まって感じていると、いま苦手だと感じているその人と同じような感じの子から、幼少の頃に仲間外れにされていたことを思い出す、というようなことが起こったりします。
そのことに気がつくと、「あ、こういったことが原因だったのだな」と自分の中で理解します。しかし、理解しただけでは、何の解決にもなりません。なぜなら、出てきた小さな子どもの自分は、傷ついているからです。今まで、ずっと苦しい状態で頑張ってきているにもかかわらず、誰からも、自分自身にさえも気づいてもらえず、見向きもしてもらえなかったからです。だから、その出てきた子どもの自分に寄り添って癒してあげることが必要です。
出てきた子どもの自分は、イメージの中で今の自分が近寄っていくと、喜んで抱きついてくることがあります。しかし、このようなことは、滅多にありません。大抵の場合は、近寄らしてもらえないか、近寄ってもそっぽ向いているか、近寄ると離れようとするかです。おそらく、この小さな子どもの自分は、今までの人生で同じような状態で辛い体験をしたことが一度や二度ではなかったはずですから、その度に傷を負ってきたのです。もしかすると、そういった場面では、大人の自分より小さな子どもの自分が前面に出ていた可能性も否めないのです。
この小さな子どもの自分が傷ついていた期間が長ければ長いほど、癒すための時間は長く掛かります。他者との境界線もできてしまっています。もし、境界線の外側であったとしても、近寄ることができたならば、子どもの自分が「何か言いたいのか」を聞き、もし言いたいことがなければ、一緒にその境界線の傍にいるだけでもいいのです。今まで、一緒にいなかったのに、突然現れてあれこれ言ったりしたりすると、逆に警戒します。もしかすると、世話を焼き過ぎると自分の親の過干渉であったことを思い出して、気がつくと子どもの自分が傍からいなくなっているということも起こり得ます。そうならないためにも、何もできないときには、まず見守ることが大事です。
上記の例のような場面に遭遇すると、おそらく今の大人ではなく子どもの頃の自分に戻っていることが多いのではないかと思うので、そういう時は子どもの自分が前面に出ている状態なのです。だから、子どもの自分を守るための行動をとった方がいいのです。間違っても、子どもの自分の承諾を得ずに、押しのけるような行動を起こさないことです。そんなことをすると、もう大人の自分を信じてもらえなくなります。
子どもの自分が、まだ大人の自分を信じずに、例のような場面で前面に出て一人で何とか頑張ろうとしているならば、その時はそっと見守ってあげます。そして、自分のからだが凍りつくような神経系に影響が出てきたときには、子どもの自分が対処できなくなり困っているときなのですから、そうなったときには、「大丈夫よ」と言う気持ちで大人の自分が守るように前面に出て助けてあげます。そうすることによって、子どもの自分が「守られている」という感覚が芽生え境界線も小さくなっていき、子どもの自分と大人の自分の間に信頼関係が生まれてきます。
こういったことを繰り返していけば、「やっと、自分を見てくれる人が現れた」「自分を分かってくれる人が現れた」という思いが芽生え、子どもと大人の境界線は無くなり、子どもの自分が安心を得られるのです。そして、「どんなときも自分を見守ってくれる」という思いから、安全であるということを認識します。この「安心・安全」こそが子どもの自分が癒されることに繋がるのです。
これは、子どもの時には決して得られなかったものなのです。自分が困ったときに誰も助けてくれなかった、自分一人で対処しなければなかったことで、随分苦しんできた辛い思いをしていた自分からの解放となるのです。
その開放が起こったとき、今の苦しみからも解放され、自分の人生に変化が起こっていきます。この変化は、他人では決して起こすことはできません。自分が自分を癒してあげることで、変化が起こっていくのです。これが、セルフコンパッションなのです。
セッションで小さな子どもが出てきたならば、その子どもの自分を癒すことが、自分を癒すことに繋がります。
信暁(2025年5月29日)