偽りの自分を生きると、気づきもまた偽りになる
2025年10月07日 21:02
前回の「『偽った自分』と向き合う」では、私自身がどうして自分を偽ってきたのか、そして、なぜその偽りと向き合う必要があったのかを書きました。
幼い頃にできてしまった「偽りの自分」は、長い間それが偽りとは気づかれないまま、人生に影を落としていました。偽っていることに気づき、手放すことで、生きづらさが少しずつ解放されていきました。
セッションをしていると、クライアントさんの内面からいろいろな気づきが出てきます。たとえば、人間関係の悩みが、自分の中にある考えや思い込みによって引き起こされていたことに気づかれることがあります。
さらに深く自分を見つめていくと、自分の生きづらさが「過去に一番輝いていた自分を失ったからである」と勘違いされていることも少なくありません。自分の苦しみが、幼い頃の母親から受けた苦しみであると話していたにも関わらず、偽りの自分を本当の自分として追い求めてしまうのです。なぜ、こういったことが起こるのか、もう一度、「自分を偽る」ということを見ていきたいと思います。
「自分を偽る」ということは、過去に「今のままの自分では到底生き延びることはできない」と自分の無意識が感じたことから始まります。それは、壮絶な虐待を受けた場合だけではなく、幼少の頃の親からの何気ない一言からかもしれません。
子どもにとっては、虐待も親からの何気ない一言も同じなのです。子どもは親を愛しています。特に母親を。子どもは親に愛され続けたいのです。だから虐待されても、何気ない一言を言われても、同じように自分が悪いと思って自分を変えようとするのです。幼い子どもにとっては、親からの仕打ちは死にも直結するぐらい重いものなのです。自分の意志で考え行動することができない子どもにとって、「自分を偽る」ことは、生き延びるための唯一の術なのです。
一度偽ることに成功すると、「これが自分の生き方」だと信じ込むようになります。そして、その偽った自分が成長と共にどんどん脚色されていきます。
例えば、「賢くなければ受け入れられない」という思い込みを持った子どもは、賢く振る舞い、勉強を頑張ります。それにより親や先生などから褒めてもらうと、ますます頑張った自分を見せてしまいます。やがて友達が増え、自分が中心的な存在となり、充実して輝いた日々となっていきます。そうすると、無理に頑張っている自分のことは忘れて、「充実した日々が送れる輝いた自分」というものを知らず知らずのうちに、自分の潜在意識に記憶として取り入れてしまいます。このようになると、偽った自分が本当の自分として、誤って認識されるようになるのです。
社会に出てからは、同じように頑張っていたとしても、もしミスや叱責が続けば、「自分はダメな人間だ」と思い込み始めます。周りに対しても「自分はバカにされているに違いない」などと思い込み、周囲の目が怖くなっていきます。かつての輝いていた自分と今の自分を比べて、「いつから自分はダメになったのだろう」と悩み始めます。そんなとき、昔の友人と会って元気を取り戻すことも度々あるでしょうが、友達も結婚して家族が増えたり、引っ越したり、自分も結婚したりと環境が変わっていくと、相談できる相手も少なくなり、次第に一人で悩む時間が増えていきます。
そういったときに、セラピーを受けることもあるでしょう。セラピーでは、自分の内面と向き合うことが多くなります。自分の内面をみていくといろいろな気づきが出てきます。そのときに、あたかも本当の自分であるかのような偽りの自分を発見します。この偽りの自分とは、「周囲の中で中心的な存在として輝いていた自分」のことです。この偽りの自分が本当の自分であると思い込んでしまうことで、いつしか、その頃の輝いていた自分を追い求めて行動を始めます。
しかし、輝いていた自分を追い求めても、決して生きづらさの解消にはつながらないのです。なぜなら、「輝いていた自分」は「偽った自分」であったからです。
本当は、この輝かしい自分が「なぜできたのか」を見ていかなければなりません。「賢くなければ受け入れられない」と無理に頑張ってきたということに気づかなければ、この悩みは解決しないのです。
では、どうして偽った自分を本当の自分として受け取ってしまうのでしょうか? それは、人は自分の一番見たくないところを避けようとするからです。幼い頃に生きるために、生き延びるために行った出来事を見てしまうと、「もう生きられない」と感じてしまうのです。だから、偽った自分を本当の自分として受け取ります。そうすれば、もう一度自分が生きるか死ぬかで苦しまなくて済むと思っているからです。
しかし、今の私たちは過去の幼い自分とは違うのです。あの頃のように、命がけで自分を守る必要はもうありません。自分の意志で行動することができなかった過去の幼い自分とは違うのです。今は、その死ぬほどの思いで偽った自分を癒せるのです。
この偽った自分を見つけ、癒さない限り自分の苦しみは終わりません。偽りの自分を生き続ける限り、生きづらさは続きます。
この偽りは、すべて大なり小なりトラウマから生まれています。このトラウマを解放しない限り、偽りは終わりません。 トラウマを解放するお話は、またの機会にいたします。
自分の偽りを外して真の自分になること。それが一番大事です。
セッションしていて一番思うことです。
信暁(2025年10月7日)