トラウマの解放
2025年10月13日 22:40
偽りの自分の背景にあるもの
前回「偽りの自分から脱することは難しい」という話をしました。今回は、その根底にあるトラウマと、そこからの解放について触れてみたいと思います。
前回の記事では、次のように書きました。
――「自分を偽る」ということは、過去に「今のままの自分では到底生き延びることはできない」と自分の無意識が感じたことから始まります。それは、壮絶な虐待を受けた場合だけではなく、幼少の頃の親からの何気ない一言からかもしれません。――
つまり何が言いたいかというと、「トラウマを受けたのだ」ということです。
トラウマはからだに記録される
どのような些細な出来事でも、子どもにとってはトラウマになり得るのです。そして、このトラウマを感じないようにするために、そのトラウマとなった出来事を自分の見えないところに隠し、なかったかのようにして過ごします。このようにして、トラウマを隠して「偽る自分」ができるのです。
例えば、「あの人といると楽しいはずなのに、帰ってから一人になると、どっと疲れる」という経験はありませんか? それは心が「偽りの自分」を演じているからかもしれません。
しかし、トラウマはいくら隠しても、偽っても解決されないのです。時間すら解決してくれないのです。ずっとからだに記憶されており、記録されているのです。
だから、日常生活の中でトラウマになった出来事と似た状況が起こると、怒り、悲しみ、寂しさ、罪悪感、不安など、辛い思いが突然溢れ出てきてしまいます。場所や状況は変わっても、繰り返し現れてくるのです。
例えば、自分が良いことをしたとき、誰かから褒められて涙を流しそうになったことはないでしょうか? からだは過去の「褒められたことがなかった自分」を思い出したからかもしれません。こういった何気ない日常の一コマにもトラウマは隠れているのです。
解放とは感じることから始まる
このトラウマを癒すためには、解放が必要です。以前は、トラウマの解放と言えば、辛い体験を思い出して語り、解放していくやり方でした。いわゆる暴露法というものです。しかし、今は辛い体験を思い出し、話さなくても解放するやり方があります。私が今トレーニングを受けているSE(ソマティック・エクスペリエンシング)がそれです。SEでは、過去を無理に語る必要はありません。「いま・ここ」にあるからだの感覚を丁寧に感じることで、その時の感情が出てきて、少しずつ凍っていたものが溶けていきます。
ポリヴェーガル理論による解放への道
この方法の基礎にあるのは、ポリヴェーガル理論です。この理論を「道」を使って説明します。
私たちのからだには、3つの道があります。
ひとつは、安全とつながりの道。誰かと微笑み合えるとき、私たちはこの道を歩いています。
もう一つは、闘うか逃げるかの道。危険を感じたとき、心臓が速くなり、からだが戦闘態勢に入ります。
そして最後は、凍りつき・シャットダウンの道。あまりに圧倒されると、私たちは感じることをやめ、心もからだも凍りついてしまうのです。
この凍りついている、または闘うか逃げるかの状態にいるものが、安全とつながりの状態へ戻ることによって、トラウマの解放が起こります。
本当の自分を取り戻すという選択
あらゆる虐待においては解離などが起こっている場合が多いため、時間はかかりますが、トラウマの解放は必ずできます。
自分自身の「偽りの自分」を手放すことはかなり勇気がいることです。しかし、今の苦しみを抱えてこの先を生きていくことを考えれば、手放す勇気をもって本当の自分を取り戻していくことを選んでほしいのです。
なぜそのように思うのかというと、私が理学療法士として病院や訪問リハビリで年配の方をリハビリしている頃、「もう少し自分というものを分かって、やりたいように生きれば良かった」と後悔されている方に何度も出会ったからです。
本当の自分を取り戻した先にこそ、あなたの本来の人生があります。
それは誰かの期待に応えるため、誰かを喜ばせるためではありません。あなたが自分を喜ばせるためなのです。
その人生にそっと手を伸ばしてみませんか。
信暁(2025年10月13日)