とどまる、感じる、ひらく

十二の巻と発達性トラウマ―育てること、育つこと

2025年11月06日 12:32

十二の巻を育てる

 5年ほど前に十二の巻という多肉植物をいただきました。「育てることができるかな」と不安もありましたが、「水やりはそんなにしなくていいよ」と言われたことで、少し気が楽になり、育ててみることにしました。

 調べてみると、春と秋は生育期なので2~3週間に1回たっぷり水をやること、夏と冬の水やりは1か月に1回程度でよいということがわかり、それを守って育てていました。そうすると、十二の巻はどんどん育ち、3つの鉢に株分けするほどになりました。

 どんどん増えて喜んでいたのですが、ある時から急に育ちが悪くなり、葉が枯れることが増えてきました。鉢から取り出してみると、根腐れを起こしていたり、根がほとんど取れてしまっていたりでした。それでも、「根がなくても植え直せばもう一度根が育ってくる」ということなので再び植えてみました。今のところ枯れる様子もなく、要観察の状態です。


十二の巻を見て感じた心の傷

 この十二の巻を見ていたら、ふと「発達性トラウマ」のことを思い出しました。特に、親からの心理的虐待によって心が傷ついていく過程と、植物の育ち方が重なって見えたのです。

 子どもは、親から世話をしてもらって成長していきます。ここでは、その成長の過程で、親から心理的にコントロールされるような心理的虐待のケースを考えてみましょう。

 親が「子どものため」と思ってしていることが、実は心理的なコントロールになっていることがあります。親自身はそれに気づくことはほとんどありません。幼少の頃の子どもは、親が大好きで「嫌われたくない」「愛されたい」という思いから言われた通りに行動します。成長するにつれて「何かおかしい」と感じても、親の影響下で生活します。やがて心が疲弊し、精神的にダメージを受けた子どもは、登校拒否や引きこもりになったり、さらには鬱などの症状として現れることもあります。それでも、親の巧妙なコントロールは見えにくく、大人になっても気づけない人が多いのです。


育て方が成長を阻むこともある

 十二の巻も、言われた通りに育てていました。順調に成長し、「これからもどんどん成長していくだろう」と思っていたところ、成長が止まってしまいました。先ほど言ったように根腐れをしている株もあれば、根がほとんど成長していない株もありました。つまり成長する過程で、見えないところで苦しんでいたのです。

 これは、親が「良かれと思って」していたことが、子どもの心を蝕んでしまうのと似ていると感じました。

 十二の巻の土の状態や根の様子を見ずに、表面的な成長だけを見ていたことが、結果的に成長を阻害してしまったのです。

 人間も、子どもの内面を見ずに親の目線だけで育てようとすると、心の成長を妨げてしまうことがあります。


植物も人も、思い通りには育たない

 やはり、「植物も人間も一緒だなあ」と十二の巻を通して、改めて思いました。植物も人間も、自分の思い通りには育ちません。

 植物の場合、愛情を注ぎ、個々の状態を見て、その環境に合わせた育て方をすることが大切です。

 人間の場合も同じです。「こう育てよう」「こう育ってほしい」という思いが強いと、かえって子どもの成長を妨げてしまいます。子どもの内面を見つめ、今どのような状態であるのかを理解することが、健全な成長につながるのだと思います。


発達性トラウマの記憶をほどく

 発達性トラウマというものは、PTSDのような単発性のトラウマとは違い、長い年月をかけて蓄積していきます。親などからの心理的虐待やコントロールは、気づき難いものです。しかし、確実に心に影響を与えます。これは、れっきとした「心理的虐待」であり、大人になってからも苦しみ続ける方が少なくありません。

 十二の巻を見ながら、発達性トラウマによる成長過程での苦しみや、大人になってからトラウマであると気づくのは、こういう感じなのかと改めて思いました。

 そして、一人でも多くの方が、こういったトラウマの苦しみから解放されることを願います。


信暁(2025年11月6日)