トラウマの館
2025年12月04日 21:16

私が、生まれたのは今の実家ではなく、別のところで生まれました。幼少期に今の実家に引っ越し、20歳までをそこで過ごしました。その後、実家を離れていたのですが、父が亡くなったことをきっかけに再び戻り、36歳まで暮らしていました。長い時間を過ごしたこの家を「トラウマの館」だとは、当時はまったく思っていませんでした。
確かに、子どもの頃には母に騙されたり、兄弟から「喋るな」と言われ続けたりした記憶があります。しかし、それだけで自分がトラウマを抱えているとは想像もしませんでした。ただ振り返ると、小学生の頃には「どうして物心つくまでに死ななかったんだろう」と思い続けていたこと、母や兄弟への強い嫌悪感があったことを思い出します。
本当に「この家はおかしい」と確信したのは、36歳の時でした。父の死後、母の様子がおかしくなり、私の生活にも支障が出ていましたが、その頃は「一時的なものだ」と諦めていました。ところが、結婚を前提に付き合っていた人との関係の中で、母が何かにつけて踏み込んできていたことに対して違和感を感じていました。しかし、その理由が何かは分からず、彼女と別れて初めてこの母は私をコントロールしようとしていたことに気づき、実家を出る決心をしたのです。
一人暮らしを始めてみると、その気楽さに驚きました。「こんなことなら、実家に戻らなければよかった」と後悔すら覚えました。仕事をしながら楽しく過ごしていましたが、専門学校に通い始めると、人間関係の中で学生時代の再現のような出来事が起こりました。猜疑心や劣等感が顔を出し、病院勤務でも人間関係の問題は続きました。
そんな中で「精神的なワーク」というものを知り、マインドフルネスのプログラムに2年間通いました。そこで初めて、自分が家族から心理的虐待を受け、トラウマを抱えていたことに気づいたのです。当時は、トラウマといえばPTSDのような単回性の出来事によるものだけだと思っていたので、それ以外にもトラウマがあるということに驚きました。そして、自分がこの「それ以外のトラウマ」になっていると知ったときは本当に驚きました。
現在はSE(ソマティック・エクスペリエンシング)のトレーニングを受け、トラウマというものはどういったものなのか、どういったときに起こるのか、トラウマになればどういう状態になるのか、ということを理解しています。私自身のトラウマの根源は、生まれたときから母にコントロールされ続けてきたことにありました。「躾」という名の虐待も含まれていましたし、兄二人からのいじめも多くありました。今振り返ると、この家はまさに「トラウマの館」だったのです。
実家のことに対していつもはそれほど何も感じないのに、明日帰るとなれば、否応なしに色々なものが出てきてしまいます。正直に言えば、帰るのが嫌で仕方ありません。自分のトラウマの元凶だと思うと、どうしても「嫌」という感情が先に立ちます。母にも兄弟には、一度だけ騙されたときのことを話しましたが、「まだそんなこと考えてるの」と冷たくあしらわれたので、それ以来トラウマのことや自分の辛さを打ち明けたことはありません。それを隠したまま接するのは、とても苦しいことです。何度かもう一度伝えようと思ったこともありましたが、言ってもムダというのと、母はすでに高齢であるため、結局言えずにいます。
「トラウマの館」から解放されるのは、もしかするとこの家がなくなったときなのかもしれません。そう思う自分がいることも、また一つの現実なのです。
信暁(2025年12月4日)