とどまる、感じる、ひらく

母の呪縛からの解放⑨(依存症マザー)

2024年05月28日 12:45

 今回は、引き続き「母の呪縛からの解放」というテーマで、タイプⅨ・依存症マザーについてお話しします。このタイプの母親は、アルコール(薬物)依存症、仕事依存症、掃除依存症、男性(セックス)依存症、買い物依存症など、ある対象にのめり込み、そこから抜け出せない母親です。

(この記事は『母の呪縛から解放される方法』(タツコ・マーティン著、大和書房)を参考にしています。)


タイプⅨ :依存症マザー

 何かに集中するとそのことだけで頭がいっぱいになり、他のことが考えられなくなります。

例えば、男性依存症のシングルマザーは、ボーイフレンドのことしか頭になく、子どもの世話を極度に怠ったり、彼氏から声がかかると、平気で子どもを放って家を空けたりします。この被害者になるのは、息子よりも娘が多く、母親代わりとして家族の面倒を見させられたりします。

 このような環境で育った子どもは早く自立して大人になりますが、母親から十分に愛情をもらえなかったと感じているので、その寂しさがトラウマとなって、人生に多大な影響を及ぼします。


《依存症マザーの口ぐせ》

・○○だけがお母さんの唯一の楽しみなの。

・私のことは放っておいてちょうだい。

・やめようと思えばいつでもやめられる。

・そんなに大事にしないでよ(専門家のところに連れて行こうとしたときなど)。


《依存症マザーに育てられた子供の特徴》

・たばこやお酒が悪いと思ってもやめられない。

・体を壊すまで働いてしまう。

・なぜだか、買い物がやめられない。

・(セックス)は私の快楽剤であり、精神安定剤だと思う。


 依存症の母親は、自分も依存症の母親に苦しめられた経験がある方が多いですが、今回はその話は脇に置いておきます。

 依存症のシングルマザーに育てられた子どもは、家族の面倒を母親の代わりに見させられることが多く、自分がやりたいことはそっちのけで、家族のために自分を犠牲にするということが多いです。そして、自分一人で何でも我慢してやってしまいます。寂しい、悲しい、嬉しい、羨ましい、疲れたなどという気持ちが、自分の中にないことになってしまいます。そのために早く大人になりますが、無意識の部分で母親からの愛にかなり飢えている場合が多いです。

 大人になり、例えば、独り暮らしをするようになり家族のために自分を犠牲にするようなことがなくなっても、仕事で自分を犠牲にしてまで働くということが出てきます。そういったときに、自分の気持ちを和らげてくれるもの、解放してくれるものとしてタバコやお酒、セックスに出会うと、それを手放せなくなったりもします。「自分が苦しい気持ちから解放させてもらえた」と男性から感じたときに不倫に走るということにもなる場合があります。


 依存は、自分が苦しいとき、自分に我慢を強いているときに起こりやすいです。しかし、自分が楽になった経験が乏しいので、決して自分が苦しいとかしんどいとかを口にすることがほとんどありません。だから、依存しているということにも気づきにくいものです。気づくことで、さらに自分を苦しめることになるので、気づかないようにしている人も少なくありません。それにより、依存症になってしまうのです。


 依存症に苦しめられている人は、過去に自分にとって不利益な状況が起こったとき、その埋め合わせとして行った行為により楽になったことがきっかけで、依存症になってしまったということが少なくありません。1回だけなら依存にはならないですが、その行為によって「自分が助けられている」と感じられ、それが「なくてはならないもの」となると依存症になってしまうのです。依存自体は、決して悪いわけではないのですが、それが「自分を嫌なことから忘れさせてくれるもの」「ないと自分を保てない」となってしまうと途端に悪に変身してしまうのです。


 依存症から逃れたいと思っている人が逃れるために苦しむのは、その人の依存症になるまでの自分にしかない狭い考えの物語があるからです。

 過去において、ある体験から思い込みをしてしまい、その思い込みから自分にとって重大な出来事が起こったとします。以前の体験からの思い込みと、重大な出来事からの思い込みで先入観が生まれます。それにより、思い込みの自動思考が起こります。そのときに、感情も一緒に出てきます。その感情は、決して良いものではなく、焦燥感、不安、心配などとして出てきます。その一連の流れとして出てくる認知の中で、ふと手にしたものが自分を不安や心配から距離を置いてくれるものなら、自然と依存症になってしまうのです。狭い範囲での物語とはこういったことなのです。


 例えば、幼児の頃に母親はいつも家にいない、家にいても自分には見向きもしてくれず、口を開けば怒られてばかりで褒められたことがないとすると、「自分は親から愛されていない」「愛される価値がない」「親の代わりに頑張らないといけない」と思い込んでしまいます。そして、思春期の頃に好きな人ができたとき、告白しても告白しても拒否されると、「自分は誰にも好かれない」「頑張っていない私を誰も好きになってはくれない」と先入観を持ってしまいます。自動思考として、「誰も自分のような頑張りが足らない人間を好きにならない」と思い、さらに何事にも頑張ってしまうこともしばしばあります。大人になり、我慢をして頑張り続けているときに、ふと手にしたものが自分を精神的に和らげてくれるもの、例えばタバコ、お酒、不倫などに出会うとやめられなくなり、「それがないと自分を保てない」となり、結果依存症となってしまいます。これが一連の物語です。この物語自体は、自分の無意識(潜在意識)に隠されているのです。


 依存症の場合は、自分が理解していなくてもこういった物語があるのだということを、まずは認めてください。認めた上で、まず自動思考になっている部分から逆に紐解いていきます。

 自動思考になってしまっている考えが出てきたとき、自分の中にどんな感情があるでしょうか。イライラや悲しみ、苦しみなどの感情があれば、まずそこからとっかかります。その部分についての感情を出すのです。感情を出すといっても、その感情の引き金になった相手や誰かに感情をぶつけるということではありません。効果的な方法は、自分自身の思いを紙に書くことです。書くときは、自分の感情をそのまま言葉にして激しい口調、怒りなどもそのまま紙面に表すのです。

 私がこの方法で紙に書くときは、自分の素の発する言葉をそのまま使って書きます。例えば、汚い言葉ですが「お前(母親のこと)のせいで俺がこんな目にあったんじゃ」みたいな感じです。誰にも見せることがないので、自分の言葉で書いてください。そうしないと、絶対自分の本当の感情は出てきませんから。


 話は元に戻しますが、そうすることにより、自分が何に対してこの感情を感じていたのかがわかります。

同じようにして、ほかにも自動思考になっている考えを取り上げ、その考えから出てくる感情を紙に書き出します。そうやって書き出していくと、どの考えを取り上げても同じような感情が出てきていることに「あれっ」と気づくでしょう。

それに気づいたら、その感情が出てきたときのことを思い浮かべ、その感情が出てきたら、そのときのからだの感覚を感じてみましょう(マインドフル状態になる)。からだの感覚を感じていると、頭で感じていた感情とは違った感情が出てくるかもしれません。それが、あなたの本来の無意識(潜在意識)に隠されていた感情・感覚です。それが、過去の自分が奥底に隠していたものなのです。ここで幼い頃に最初にできた思い込みの段階まで一挙に感じる人もいますが、それはかなり稀です。それでもたいていの人は、自動思考ができる元になった先入観ぐらいのところまでは気づくことができます。この先入観があると気づくことは、すごいことなのです。

 先入観まで気づくと、今度は「何で」「どうして」となぜ先入観を持ったのか疑問に思ってきます。その疑問に対し、またそのときのことを思い出しながら紙に書く、出てきた感情をからだに落とし込み感覚として感じるということを、一つ一つ丁寧に行っていくと原点にたどり着きます。この原点にたどり着いたときには、依存していることからある程度距離を取れていることが多いです。


 ここで、大事なことがあります。少しずつでも気づきが起きたときは、「よく気づいたね、偉いよ」と自分をしっかりいたわってあげてください。奥深いところに気づいていくと子どもの部分が出てきますので、そのときは、大人の自分が、子どもの自分をしっかり抱きしめてあげてください。「自分は親から愛されていなかった」「愛される価値がないと思っていた」と気づいたならば、いまの大人の自分が、愛されたがっていた子どもの自分をしっかり抱きしめてあげるのです。そして、しっかり子どものときの自分をわかってあげ「こんなことされたら、依存しても仕方がなかったよね」と否定することなく包み込んであげるのです。いつもお伝えしているように、自分自身にセルフコンパッションするのです。そうすることにより、苦しんでいた依存症から解放の道が開けていきます。


 私たちのセッションでは、アルコール依存症、ワーカホリックから立ち直った方がおられます。軽い依存症ならばこの方法で解放に向かいますが、重度の依存症の場合は、専門家の医者や自助グループなどに診察や参加されることをお勧めします。そして、専門家を頼りながら、自分自身を取り戻していってください。そうすれば、自分を取り戻す道は開けます。


次回は、母の呪縛からの解放シリーズ最終回。

母の呪縛からの解放⑩「虐待マザー」です。


信暁(2024年5月28日)