とどまる、感じる、ひらく

母の呪縛からの解放⑩(虐待マザー)

2024年05月31日 19:11

 

 今回は、「母の呪縛からの解放」というテーマの最終回で、タイプⅩ・虐待マザーについてお話しします。このタイプの母親は、子どもに暴言を吐いたり完全無視をしたりする精神的虐待や、暴力を振るう肉体的虐待をする母親です。

(この記事は『母の呪縛から解放される方法』(タツコ・マーティン著、大和書房)を参考にしています。)


タイプⅩ:虐待マザー

 自己嫌悪や罪の意識が極めて強く、子どもをいじめては強烈な後悔に襲われますが、自動的に身についてしまったこの悪習慣は、そう簡単にはやめられません。

 たいていの母親が自らも虐待の被害者で、父親や母親などから精神的、もしくは肉体的な虐待を受けている場合が多いです。

 虐待をした後、急に優しくなるというのが、この母親の特徴でもあります。たとえば、子どもを殴った後に「本当にごめんね。ママ、もう二度とやらないからね。約束する」と言って、子どもを抱きしめたり、ソフトクリームを買って食べさせてあげたりします。このとき、母親は、心の底から後悔し、本気で謝ったり、償いをしたりするのですが、その気持ちは長続きせず、また、殴る→謝る→殴る→…を繰り返します。


《虐待マザーの口ぐせ》

・本当にバカでとりえが何もない子ね。

・あんたみたいな子はもういらないよ。

・どうせ、また失敗するに決まっている。

・どうしてお母さんの言うことを聞かないの!(聞いてもいちゃもんをつける)


《虐待マザーに育てられた子どもの特徴》

・イライラするとついカッとなって子どもなどに手を挙げてしまう。

・相手の人格を否定するような暴言を吐いてしまうことがある。

・弱い立場の人をいじめてしまう。

・暴言暴力がひどい男性でも、優しい言葉をかけられると別れられない。


 今回は、母親自身が虐待されてきたこと、および重度の虐待については言及するのを控えさせていただきます。あくまでも、虐待マザーに育てられた子どもが、ちょっと頑張れば生活できるレベルでの話になります。ご了承ください。


 虐待マザーも、子どもが生まれたばかりの頃は、可愛くて、優しく育てようとしたと思います。しかし、自分が優しく育てられていないため、どう育てていいかわからなかったのです。自分がされてきたように、怒るか物をあげて優しくするかの2つの選択肢しか知らなかったのでしょう。

 この家族に一番欠けているのは愛です。虐待を受けて育った子どもは、母親からの温もり、母親からの愛情のこもった言葉、いわゆる母親からの愛なしに育っていることが多いです。しかし、子どもは愛がどのようなものかを知らないので、自分が愛をもらっていないなどということはわかりません。母親に嫌われたくないので、母親がすることに対して、ひたすら我慢します。叩かれるとわかっていても、逃げません。「自分さえ我慢すれば、きっとお母さんは優しくなってくれる」と思ってしまうのです。このとき、子どもには凍りつきが起こっているのです。自分が今の環境で生き抜くために、自分の感覚をないものとして、無意識(潜在意識)に押し込めてしまいます。けれども、その押し込めた感覚、苦しみは、決して子どもの中から消えてしまったりはせず、無意識の中に閉じ込められたままになっているです。


 愛(温かい環境)がないまま育ってしまうと、大人になってからも、次のようなことが起きてきます。

・自分がいけないのだと、すべてのことで自分を責める。

・自信がない、自己肯定感がない。

・誰も自分を守ってくれない、助けてくれないと感じる。

・恐れ、寂しさ、不安、激しい怒りなどの感情を持つ。

・支配ー従属の関係になり、対等な関係を作れない。

・愛することも、愛を受け取ることもできない。

・感覚をブロックし、感じないように生きていく。

・極度に失敗を恐れ、一度学んだパターンに固執する。

 こういったことが起きやすいと、前回お話しした、最初の思い込みから自動思考ができてしまう一連の流れに組み込まれてしまいます。


 もし、自分が人から褒められることが苦手、怒られているほうが気分が楽といった気持ちがあるなら、少なくとも過去に虐待されていた可能性が高いです。「虐待されていた」と気づいたら、まずはそのことを認めてください。

 虐待されていたということは、少なからず発達性のトラウマが必ずありますから、「発達性のトラウマがある」ということも認めてあげてください。トラウマがあるということは、自分自身の感覚だけではなく、自分自身のからだにも神経を介して影響が出ています。(これはポリヴェーガル理論で説明できますが、ここでは詳しい話はやめておきます。)ですから、からだの中の記憶を、からだの感覚やからだの反応をみることから癒やしていくのです。決して、トラウマの出来事を探っていくのではありません。そんなことをすると「再トラウマ」が起こってしまいます。

 まずは、現在の身近なところで、息苦しく感じていることなどから、前回のように自動思考になっている考えを取り上げ、その考えから出てくる感情を紙に書き出していきます。感情を出しながら、そのときの感覚を感じていくのです。そうすることにより、どういったことでイライラするのか、他人に暴言を吐いてしまうのか、人に優しくできないのかがわかってきて、なぜ褒められることが苦手なのか、なぜ他人から怒られているほうが楽なのかといったこともわかるようになっていきます。


 虐待を受けた人が一番苦手なのは、他人から愛を受け取ることです。

 なぜ、他人から愛を受け取ることができないのか。それは、自分が自分自身のことを嫌っているからです。いつも一緒にいて、一番愛してほしいはずの自分自身の愛を受け取っていないからなのです。それは、「どうせ誰も自分のことをわかってくれないから」「どうせ自分のことを良く思ってくれる人はいないから」などと、自分を蔑ろにしていることが原因となっていることが多いです。


 では、どうすればいいのか。自分が自分自身を理解して抱きしめてあげるのです。と言われても「は~」って思うかもしれません。

 いまの大人の自分が、過去の虐待にあっていた子どもの自分を理解して抱きしめるのです。どこで大人の自分と、子どもの自分がわかるかといったら、イライラしたとき、他人に暴言を吐いたときなど、そのときは自分が子どもに戻っているときなのです。もっと言うと、虐待にあった子どもの感覚に戻っているのです。だから、イライラしたときや、暴言を吐いたときなど、「あっ、子どもに戻っているな」と大人の自分が気づいてあげ、例えば、自分自身の両腕をしっかりつかむように抱きしめる動作をするのです。もし、人前でできないときは、その抱きしめる感覚を家に持ち帰り、自分一人のときにしてあげるのです。

 最初はもしかしたら「こんなことやって何になる」という思いがあるかもしれませんが、実際に、これだけで変わってくるものなのです。こういうことで変わり始めると、他人に接する態度も変わりますし、知らず知らずのうちに自分自身も大いに変わっているということがあります。そうなると、虐待されていた自分から脱却し新たな自分として人生を踏み出せるようになります。


 もし、自分一人で自分自身を抱きしめてあげることが難しければ、自分に合った心療内科や心理カウンセリングを利用することもいいでしょう。


 最後に、私たちが、行っているセッションを簡単にお伝えしておきます。私たちのセッション(マインドフルネス、整体とも)では、過去を癒やそうとはしません。今のからだの感覚、例えば「背中が痛い」「お腹が重い」を感じ、今の自分がどうしてほしいのかにフォーカスします。そして、背中に手を当てたり、お腹に声を掛けたりすることにより、「温かい」「気持ちいい」「うれしい」という感覚が出てきて、手の温もりや声を掛けられた感じから、過去に得られなかった体験を満たしていきます。それによって過去の記憶が出てきて、そのときの感情が出てきたりします。その感情を「いま、ここ」の状態で出していくのです。そして、そのときの自分の感覚を取り戻していくのです。こういったことにより、いままで自分のからだに残っていた感覚にはじめて触れてあげることができるのです。


 からだに残っている感覚を一つ一つ丁寧に見ていくことで、現在の自分と過去の自分に境界線を設けてあげることができます。それが、過去に縛られずに、「今の自分を生きる」ということに繋がっていくのです。


信暁(2024年5月31日)