とどまる、感じる、ひらく

自分の中の境界線

2024年08月07日 18:54

「親子の関係って何なの⁈」というブログで、親が子どものテリトリーを侵害する話をしましたが、テリトリーの侵害は親子関係のように自他の間で起こるものばかりではありません。自分の中の大人の部分と子どもの部分の間でも起こり得ます。自分の中で起こることは、「境界線のほころび」といった方がいいのかもしれません。

 

 誰しもが、大人の部分と子どもの部分を持ち合わせています。例えば、仕事をする場面では大人として行動し、自分の趣味や楽しいことをするときなどは子どもの部分が表に出るという感じです。 

 こういった行動は、形の上ではすべての大人ができるはずです。しかし実際には、幼児のときにしっかりとした安心感と愛着を得られた人だけが、大人になってから、境界線のほころびもなく情緒的にも安定した状態で、こういった行動がとれるのです。

 

 生まれてから3歳ぐらいまでは、母親と共生関係のつながりがあります。この時期に安心感と愛着が得られると子どもの自律性が現れ、子どもにとってしっかりとした境界線の礎となります。この境界線をしっかりしたものにするためには、家族との関係も大事です。しかし、この安心感と愛着が不十分であったなら、子どものときの欲求を残したまま大人になります。これが、境界線のほころびを生んでしまうのです。

 

 子どものときの欲求は、大人になりそのままの形では出てきません。他人といるときに、何かのきっかけで怒りとして出る場合があります。緊張として出る場合もあるでしょう。恥ずかしい気持ちにさせられる人もいるでしょう。これは、決して自分でコントロールできるものではありません。過去において、自分の欲求が満たされないときに、自分の中の無意識が反応していたものなのです。この無意識が反応したときのような状況になったときは、大人である自分の中に居る子どもの無意識の部分が反応しているのです。これが、境界線のほころびなのです。

 

 私の子どもの頃(昭和40年代)には、抱き癖がつかないように、1歳ぐらいになってくるとあまり抱かないようにしよう、あるいは「三つ子の魂百まで」ということで、躾はしっかり3歳までに行わないといけないという風習が当たり前のようにありました。私がつかまり立ちするくらいの頃は、「泣いていてもほったらかしにしていた」と、大きくなってから母親から聞かされましたし、厳しくしつけられたりもしました。 

 物心ついてからは、母親だけでなく家族からも干渉を受けていました。私が物心ついた頃に、「お前の話は訳わからんから喋るな」と親兄弟から言われ続けてきたことも原因のひとつとして、今でも10人以上の人の前で自己紹介をする、話をするということが苦手です。 

 最近の話ですが、一緒に学んでいるグループで順番に課題をこなす場面で、他の人が上手く課題をこなした後で自分の番が回ってきたとき、いつもやっているようにできないということがありました。そのことから、いつものようにできないのは「子どもの自分に戻っているからだ」と気づきました。 

 そんなことになってしまう要因として思い当たるのは、小学生の時に起きたことです。同じような状況で、他の子はできて自分だけできず、できるまで給食を食べさせてもらえなかったということがありました。このときのことを無意識にからだの中で思い出しているようなのです。そのとき、今の大人の自分で居ることができず、子どもの部分が表に出てくるのです。このこと自体が、境界線のほころびです。

 

 無意識の子どもの反応が大人の自分の中に出てきてしまうと「どうすることもできないのか」というとそうでもありません。発達性トラウマ(子どもの成長の過程で起きてくるトラウマ) の場合は、トラウマ治療が必要になりますが、発達性トラウマほど深刻でない場合は、しっかりと出てきたものに対して、まずは「自分がこんなことになるのは、自分の中に居る子どもの部分が表に出てきているからだ」「満たされなかった子どもの自分がやっていることなのだ」としっかり認識することが大切です。 

 おそらくこのようなことは、多かれ少なかれ同じような状況のときに繰り返し出てきていると思います。そんなときに、「今日は調子が悪かっただけ」と自分を納得させて終わりにしてしまうのではなく、「どうしてこんなことをしたのか」と自分を見つめることが必要となってきます。そうやって自分に問いかけることを繰り返しやっていくことにより、自分の中に居る「子どもの部分と大人の部分」をしっかり見分けることができるようになります。

 

 自分自身の大人の部分と子どもの部分の境界線のほころびは、気づくこと自体難しいでしょう。気づくためには、自分自身を日頃から「いま、ここ」という状態で「みる」ということをしていると気づけるようになります。常にマインドフルな状態で居るということです。そして、気づいた後は、子どもの自分に対して優しい気持ちで「つらかったねぇ」「よくここまで頑張ってきたねぇ」と過去形で声をかけることです。そうすれば、満たされなかった子どもの部分が満たされるようになり、境界線のほころびが消えていき、しっかりとした境界線が自分の中にできます。

 

 ただ、境界線がしっかりできたからといって、必ずしもすぐに反応が消えるわけではありません。今まで反応していたものに対する見方が変わったり、「また出てきた」と気づいたときに、それに対する反応の仕方が変わったりするのです。それだけでも、翻弄されることが少なくなり、落ち着いて自分自身でいられるようになるはずです。

 

 日頃から、何かおかしいと感じていることがあるなら、まずは自分を「みる」ということから始めてみませんか。 

信暁(2024年8月7日)