自分の中の恐れを知る
2024年08月16日 10:56
自分が他人に対して理不尽に怒ってしまうとき、ほとんどの場合、その背景として、自分の奥底に「恐れ」があります。これは無意識(潜在意識)にあるので、恐れがあるとは自分で認識していないことが多いです。
この場合の「恐れ」は、家族の中で植え付けられたものが多いのが特徴です。そして、その家族とは、子どもと親との間が、愛情と信頼の感情で強く結ばれていない家族です(このことは7月23日に書いたブログ「親子の関係って何なの⁈」で詳しく書いています)。
この植え付けられた恐れは、成長してからは恐れとしてそのまま出てきません。「怒り」として出てくる場合が多いのです。
例えば、友達といるときにある出来事が起こったとします。他の人は怒ることでもないので普通にしているのに、なぜか自分だけは、どうしてもそのことが許せないと感じてしまい、怒ってしまうといった場合です。あとで冷静になり、なぜ自分が怒ったのかを考えても、理由は分かりません。自分自身の無意識の中の恐れが「怒り」として出たのです。
なぜそういうことが起こってしまうのか。それは、幼少の頃に植え付けられた恐怖からの凍りつきの反応に端を発しています。
就学前の子どもは、親とのコミュニケーションを、感覚を通して行っています。子どもは、親の声の調子・顔色・親の態度などを、感覚を通して感じています。そして、子どもはその感覚を手掛かりとしてコミュニケーションをとっています。もし親から嫌な感覚を受け取り続けたならば、それは無意識な恐怖となり、凍りつきが起こるのです。
例えば、幼少の頃、よく怒られていたとします。そのときに、「どうしてこんなことをするの」「何回同じことを言わせるの」などと強い口調で怒られていたとすると、子どもは無意識に恐怖で凍りついてしまいます。決して大人のように闘う行動はとれないのです。この凍りつきが、子どもの自然な反応として無意識に閉じ込められるのです。
成長するとともに、この凍りつき反応は、瞬時に闘争反応に変化するようになります。ポリヴェーガル理論でいう耐性領域(自分が安全・安心と思える領域)がかなり狭いということです。こういったことが起こる背景には、凍りつき反応に対する自分の中の恥ずかしさが関わってきます。
自分が幼少の頃に、間違ったことをして親からひどく怒られ、恐怖で凍りついていたとします。成長してから、そのときの凍りついていた自分の反応を思い出すと、今の自分なら闘えるのに……と、闘えなかった自分を恥じる気持ちが湧いたりします。この「恥」という感覚が、恥ずかしい自分を他人に知られたらどうしようという、次の「恐れ」を生み出します。そして、やり場のない気持ちが闘争反応となり、怒りとなって出てしまうのです。
例えば、たまにスーパーのレジなどで怒っている高齢者の方を見かけることはありませんか。その人は、店員さんの間違いが許せなくて怒っていたのかもしれません。けれども、そのとき、その人に何が起きているかというと、無意識に自分の過去のことに対する反応が出てきてしまっているのです。
その人も、過去に自分の間違いをひどく怒られ、凍りついてしまう体験をしていたのでしょう。そして、凍りつくしかなかった自分のことを、恥じているとするなら、そんな自分を知られたくないのです。相手の間違いを見て、自分の過去の感覚が反応として瞬時に思い返され、そのことに自分で気づく間もなく、闘争反応としての怒りを起こしてしまっているのです。
私の場合は、家族から理不尽な怒られ方をよくされていました。そのときは、「怒られる自分が悪いのだから」と思って、黙って怒られていました。だから、何を言われても瞬時に恐怖で凍りつくという反応が身についていました。
けれども成長するにつれ、怒りのほうが先に出て、反論するということをするようになりました。だからといって凍りつきがなくなったというわけではなく、瞬時に凍りつきから闘争反応に変化しているに過ぎないのです。大人になってからは、仕事をする中で理不尽なことを言われたときに、瞬時にこの反応が出て、「怒りをぶつけてしまう」ということもしていました。
自分の中の無意識には、「いつまでも凍りついている自分は情けない」「自分はいつまでも子供じゃないぞ」という気持ちが潜んでいます。いつまでもやり込められていた自分を恥じる気持ちが、こういう気持ちに変化しているのです。
もしあなたにも、「訳もなく怒ってしまった」と後で気づくようなことがあるならば、子どもの頃にしょっちゅう恐怖で凍りついてしまう自分がいなかったかどうか思い返してみてください。もし、恐怖で凍りついていた自分を見つけたならば、「凍りついていた自分がいるなあ」「凍りついていた自分を恥じているのだなぁ」と自分を見てみてください。そして、その過去の恐怖で凍りついていた自分に対して、「怖かったねぇ」「もう凍りつかなくていいよ」「凍りつくことは恥ずかしいことではないからね」と声をかけてあげてください。そうすることを続けていくことで、自分自身の耐性領域が広がり、自分の怒りの行動が少しずつ少なくなっていきます。
「自分の中の恐れに気づき、それを癒やしてあげる」。そうすることで、自分の過去の感覚は昇華され、また一歩自分の思い描いた未来へ近づいていくのです。
信暁(2024年8月16日)