とどまる、感じる、ひらく

バランス

2024年08月20日 18:41

 バランスと聞いて何を想像しますか。「やじろべえ」を思い出す方も多いのではないでしょうか。

 

 バランスとは、つり合い、調和のことです。地球上のすべてのものは、重力とのバランスを保ちながら存在しているといっても過言ではありません。「やじろべえ」は傾いたとしても、ある一定のところまではバランスを保っています。その限界を超えたとき、倒れてしまうのです。

 

 人は、身体を支えている左右の筋肉のバランスが悪くなると、姿勢が崩れてしまいます。耳の中の三半規管からだのバランスをつかさどる場所に悪い影響が起こると転倒して歩けないということも出てきます。脳卒中など脳に影響が起こると、自助具によりバランスを保って生活をするということも出てきます。栄養が偏り過ぎると内臓のバランスが崩れてしまいますし、身体に悪いものばかり取り入れていると、病気になったりもします。 


 人には、身体的なバランスだけでなく、精神的なバランスもあります。精神的なバランスが崩れ過ぎると外交的な人では感情が表に出やすくなったり、内向的な人であれば鬱のような症状が現れたりします。 

 そして、身体的なバランスが崩れることにより、精神的なバランスが崩れることもあります。その反対も然りです。人間は、肉体と精神が密接な関係にあるので、どちらか一方が崩れると、もう一方にも影響を及ぼすのです。しかし、精神的なバランスを崩すほうが、より深刻になりやすいとも言えます。

 

 トラウマの場合はさらに複雑です。トラウマを負うと、瞬時に精神のバランスが崩れるだけでなく、脳のバランスも崩れてしまいます。前頭前野にある精神の制御装置が壊れ、記憶に影響を及ぼし、トラウマを受けたときの感情・感覚が未完了のまま残ってしまいます。トラウマを持ったままその後の生活を送ると、自分の意にそぐわないときに感情が噴出し周囲を驚かせることもしばしば出てきます。そして、自分で制御できなくなると、アルコールや薬物といったものに依存するようになってしまうこともあります。

 

 このように考えると、生活する上で肉体的にも精神的にもバランスを保つことが、いかに重要かが分かります。

 

 肉体的なバランスだけが崩れた場合は、筋力トレーニング、ストレッチ、マッサージや栄養の改善によりバランスを元に戻すことはできます。しかし、精神的なバランスも崩れているとなかなかそうはいきません。 

 少し気分が落ち込んだり、沈んだりしているぐらいなら、運動により気分が変わり、心身のバランスが回復することはあります。しかし、精神的なバランスが限界を超えると、なかなかそうはいきません。身体を刺激することで、反対に症状が悪化することもあるので、慎重になる必要があるのです。精神は繊細なものなのです。

 

 肉体と精神、両方のバランスが崩れてしまったときは、まずは、精神的なバランスを戻すことを考えてください。そう言われても、どうすればいいのか悩みますよね。

 

 もし、今、自分がどんな感情を持っているのか、からだにどんな感覚があるのかに気づける状態で、その感情・感覚を出せるようなら、出すことです。出すといっても対象の相手がいる場合、相手に感情をぶつけるのではなく自分の中でやるのです。例えば、相手に対する気持ち、感情をネガティブなものまで書き出すことです。 

 この方法は、結構良いです。私も、過去に何回もやりました。これの何がいいかと言うと、自分の感情のみならず、感覚までアクセスできるということです。感覚までアクセスできると、この感覚は以前にも出てきた感覚であるということに気づき、自分の本当の今の苦しみの原点にアクセスすることもできるのです。 


 まだ、感情・感覚を出せないという人は、自分を労わるように自分で抱きしめてあげてください。そのとき、「苦しかったねぇ」「よく頑張ってきたねぇ」と声を掛けながら両腕をつかむような感じで抱きしめてあげてください。 

 このとき、もしネガティブなものが出てきた場合は、それも一緒に抱きしめてあげるのです。ネガティブは、決して悪いものではありません。今まで自分を守ってくれた大事な守り神のようなものです。だから、粗末に扱うのではなく「ありがとう」という気持ちをもつのです。 

 そして大事なのは、ゆっくり気の済むまで、休む、寝ることです。そうすれば、心も回復していき、精神のバランスも取り戻すことができるでしょう。精神のバランスが戻ってきたら、身体的なバランスも考慮して運動していくとなお良いでしょう。

 

 トラウマの場合は少し違います。脳からの神経系も壊れているので、神経系の調整が必要となってきます。できれば、トラウマの専門療法のソマティック・エクスペリエンシングなどを受けていただくことをお勧めします。

 

 「バランス」と一言で言っても難しいものです。身体的、精神的またはその両方のバランスを考慮して、それぞれに合った方法で対処しなければ、逆に悪化してしまうことにもなりかねません。

 

 ですから、少しでも身体的・精神的に「キツイ」と感じたときには、無理をせず立ち止まり、自分自身の中の声を聴くことが大事です。決して限界まで我慢しないでください。そして、その声をジャッジするのではなく、その声をしっかり汲み取り、自分自身で労わってあげてください。

 

 自分のことは、自分にしか分からないのです。自分が自分のことを分かってあげて、心身共によいバランスでいられるようにしたいですね。 


信暁(2024年8月20日)