とどまる、感じる、ひらく

「ありがとう」という言葉

2024年09月14日 18:58

 「ありがとう」という言葉は、自分の人生に奇跡を呼ぶ言葉と言われています。他人に感謝をすれば、人に対して慈悲の心が生まれ、自分にも他人にも良い影響を与え、人間関係がよくなるだけでなく、自分のからだも健康になるからです。


 私は、20年ほど前に人生で行き詰まっているとき、自己啓発の本で「ありがとう」という言葉について書いてあるのを目にしました。

 私は、それまで人に何かをしてもらったときなどには「ありがとう」という言葉を使うのではなく、「すみません」という言葉をよく使っていました。決して、「ありがとう」という言葉は使ったことがありませんでした。

 例えば、一緒に働いている人からお土産をもらったときとかに、「ありがとう」ではなく、「すいません」と言ってしまうのです。悪いことをしたわけではないのですが、自分みたいな人間にお土産なんて……という気持ちが奥底にあったために、自分には「すみません」という言葉のほうがしっくりきていたのかもしれません。


 自己啓発の本に出合ってから、そこに書かれていた「ありがとう」という言葉を使ってみようかなという気持ちになり、使い始めました。まずは、手始めにスーパーなどでレジの人に言うことから始めてみました。

 しかし、慣れていないので、いざ言おうとすると上手く言葉が出てきませんでした。声が小さかったりして、逆に怪訝そうな顔で見られたこともあります。

 そうこうしているうちに、だんだんと「ありがとう」という言葉が普通に言えるようになってきました。そうすると、「ありがとう」と言っただけで相手も笑顔になったりすると、言ってよかったなと思い、今まで何も言わないときよりも気分が良くなる自分がいました。


 しかし、良くなることばかりでもなかったのです。こちらが「ありがとう」と言って笑顔になってくれる人ばかりでなく、何も反応がない人、機嫌が悪そうな人に対しては、自分がジャッジしていました。そして、笑顔や何か反応してくれる人以外は、「ありがとう」と言わなくていいと勝手に決めて、何か反応してくれる人だけに言っていた時期もありました。

 ある時、それではいけないと気づきました。他人をジャッジするのでは、今までと何も変わらない、独りよがりで言っているだけ、「ありがとう」という言葉を言ったとしても、それは自分に嘘をついていることになると思いました。自分がなぜ「ありがとう」という言葉を言おうとしたのかを考えました。その時の私は、自分の人生を良くしたい、人間関係を円滑にしたいと思って始めたのです。それなのに他人をジャッジするということは、自分自身を欺いていることになると思い、心を改めどんな人にも「ありがとう」というように心掛けました。


 当たり前のように「すみません」という言葉を使っているときは、気持ち的にもどんよりとしたものがあったように思います。しかし、「ありがとう」という言葉を言うようになってから、どんよりとした気分はなく、気分が前向きになっているのがわかります。


 今では「ありがとう」という言葉が自然と言えるようになり、当たり前のように「ありがとう」と言っている自分がいます。しかし、やはり自分も人間です。機嫌の悪い日もあれば良い日もあります。機嫌の悪い日に、「ありがとう」と言ってムッとした顔をされれば、一瞬腹立たしさも出ます。けれども、マインドフルネスをしているので、それは自分の機嫌が悪いせいで、ムッとされたことに引っかかっただけなのだと気づき、すぐに手放せています。そして、相手も人間ですから、機嫌のいいときも悪いときも、健康なときもそうでないときもあります。だから、相手の人の態度がどうであれ、どんな状態でも相手に敬意をはらい、感謝するようにしています。


 簡単なようで難しい「ありがとう」という言葉。


 この言葉は、自分の人生に光を灯してくれます。それと同時に、自分の中の隠していた心の状態も炙り出されます。しかし言えることは、どんなことが炙り出されたとしても、自分自身が今よりも心が開けること、前向きになれること、自分自身の中にこんな隠れたものがあると発見できること、自分自身にもこんな良いところがあったんだと発見できること……などがあるということです。


 たった簡単な5文字「あ・り・が・と・う」。

 この言葉の魔法にかかってみるのもいいかもしれませんね。


信暁(2024年9月14日)