とどまる、感じる、ひらく

安全・安心がないと「いま、ここ」は難しい

2024年10月27日 19:41

 以前、「いま、ここ」を感じることは難しくないとお伝えしました。その理由は、たとえば、ホームで電車を待っていて、電車が見えて「電車が来た」と思う瞬間、あるいは、横断歩道で信号待ちをしていて、信号が変わったのを見て「渡れる」と思った瞬間、そういうときには、「いま、ここ」に居るからです。 

 このように「いま、ここ」を感じる瞬間は、生活のなかでさまざまにあります。では何が難しいのかというと、「いま、ここ」に居続けることが難しいのです。 

 

 マインドフルネスになり「いま、ここ」の感覚を大事にする、そうすることにより注意力や集中力がアップしたり、不安などが解消されたりするということをよく聞きます。確かにその通りです。 

 しかし、マインドフルネスで「いま、ここ」にいるためには、前提として自分自身が安全・安心であるということが必要なのです。この安全・安心がなければマインドフルネスはできないのです。 

 

 この安全・安心の中に自分自身が居られないということは、言い換えると他人との境界線(バウンダリー)が確立されていないともいえます。どういうことかというと、境界線がないので、たとえ誰もいない部屋で自分一人でマインドフルネスをしようとしたとしても、やっているうちに不安に苛(さいな)まれてくるのです。誰も居ないはずなのに、想像からくる他人との境界線の崩れが邪魔をするのです。そして、不安が強くなりすぎるとマインドフルネスどころではなくなります。 

 このようなときには、過去において自分が無意識に苦しい状態から脱するために行った方法が現れてきます。それが、解離(無意識のうちに違うところに意識が飛んでしまうこと)という状態なのです。この解離は、トラウマを受けた人がなりやすい状態です。 

 

 例えば、学生のときに数人からいじめを受けていたとします。「なぜ自分がこんな目に」とか「やり返したい」と思っても、一人ではどうすることもできず、誰かに助けを求めても誰からも助けが得られなかったりして、自分一人で自分を守らなければならなくなったとします。結果として、「凍りつく」という状態になってしまいます。 

 この凍りつく状態に入ると、自分の心身の痛みや恥、虚しさ、怒りをないものとしてしまいます。そして、いじめられている苦しみから意識を解放するために、「解離」という状態を引き起こしてしまいます。この解離は、自分の命を守るために、無意識にやってしまうことなのです。 

 

 解離は意識的に行っていることではないので、自分ではコントロールできません。コントロールできないので、思わぬときに突然に出てきます。それが、マインドフルネスで「いま、ここ」を意識しているときに出てくると、そのコントロールできないものに飲み込まれてしまうのです。だから、マインドフルネスをする前に、自分が安全で安心が居られる状態をつくることが先決なのです。 

 

 境界線がない人は、身体感覚が乏しい場合が多いです。特に、皮膚感覚が薄い人が多いです。ですから、まずは、皮膚感覚、身体感覚を取り戻すことが、境界線を確立する手掛かりとなります。 

 

 境界線を取り戻す方法には、一人でもできる次のような方法もあります。 

・楽な姿勢で椅子に座ります。 

・自分の左手の指先を右手でつかみます。つかんだ右手を、ゆっくりと左の指先から肩に向かって少しずつ動かしていきます。 

・反対の手も同じようにゆっくりと少しずつ行います。 

・次に、右手で右足の足先を、左手で左足の足先をつかみます。足をつかんだまま、両方の手をゆっくりと足先から太ももに向かって少しずつ動かしていきます。 

※もし嫌な感じがすれば、すぐにやめて構いません。 

  

 この方法で大事なことは「しっかりつかみながら、ゆっくりやる」ということです。しっかりつかむことによって、身体内部の感覚受容器が反応し、「自分がここに居る」ということをしっかり認識してくれるからです。この「自分がここに居る」という感覚が、失われた境界線をつくる一歩となり、「いま、ここ」の感覚に繋がっていきます。 

 

 まずは、「今ここに居る」という感覚を取り戻すことが大事です。そうすることによって、マインドフルネスをするとき、無意識にコントロールされてしまうことがなくなっていき、安全・安心の感覚と一緒に居ることができるようになってきます。 

 

 マインドフルネスに限らずどのようなことでも、安全・安心の感覚がなければ十分にはできません。自分が安全・安心であるかを常に意識しながら、もし安全・安心が乏しいと感じるなら、他人との境界線が確立されているかどうかを確認してみてください。そして、もし確立されていないと感じるならば、ぜひ上記の方法を試してみてください。 

 

安全・安心を取り戻し「いま、ここ」に居られるようになるには、境界線の確立が不可欠なのです。 

 

信暁(2024年10月27日)