とどまる、感じる、ひらく

実家に隠された思い

2024年11月06日 22:02

 1週間ほど、実家に帰っていました。実家に帰ると、いろいろと内面のことが浮き彫りにされます。 


 今回は、実家に置いたままになっている自分のものを片付けるために帰ったのですが、片付けをしているときには、思い出のものから過去の記憶が掘り起こされました。楽しかった思い出もあるはずなのに、なぜか良い思い出よりも、あのとき「ああ言われた、こう言われた」という嫌な思い出のほうが多く出てきました。

 

 そのときに思い出されたことのひとつは、次のようなことでした。

 

 パンダのぬいぐるみを買ってもらったときのことでした。たぶん5、6歳の頃だったと思います。そのパンダのぬいぐるみは、小さい私には自分の身長と同じくらい大きいものでした。大きいので家に送り届けてもらいました。送られてきたときに一度箱から出して触ったのですが、母親から「汚くなるので箱に入れとこうね」と言われたきり、二度とパンダを見ることができませんでした。自分の目の届かないところに隠されてしまったのです。母親からするとパンダのぬいぐるみは値段が高かったので、汚したくないという想いがあったのだと思います。 


 今回、実家に帰って、あのパンダを探してみました。しかし、家の中のどこにもありません。母親に聞くと、「だいぶ前に甥っ子にあげたはず」という答えが返ってきました。自分には、見せることも触ることもさせなかったのに……と残念な気持ちが湧いてきました。 


 でも、ただ残念な気持ちだけでは終わらない何かが自分の中でくすぶっていました。よく考えてみると、母親の中には、どこにも私のことが無かったのです。それを思うと、怒りが湧いてきました。 


 自分は、母親の言われた通りにし、最初に少しだけ直に触り柔らかい感触を確かめることはできましたが、抱きしめることは袋の上からで、決して満足のいくものではありませんでした。私がぬいぐるみを見て、触って、抱きしめてどのように嬉しい気持ちになるのかを、母親は想像すらしなかったのです。私の嬉しい気持ちよりも、「ぬいぐるみが汚くなる」という嫌な気持ちのほうを選んだのです。「私の気持ちを蔑ろにされた」ということで憤りを感じました。 


 次に、「私は、いったい誰の子なのか」「貴方にとって私は何なのか」という想いが私の中に感覚と一緒に湧いてきました。この感覚を感じると、寂しい気持ちにもなりました。このパンダのぬいぐるみを触って、その後「汚くなるので箱に入れとこうね」と言われたときには、怒り、憤り、寂しい気持ちなどがあったのだと気づきました。 


 母親からの「汚くなるので箱に入れとこうね」という言葉は、私の人生に大きな影響を与えました。新しいもの、きれいなもの、高価なものなどをもらったり買ったりしたときは、たとえ自分が欲しいと思って得たものであっても、使うことができずにいつまでもしまっておく、ということをしてしまうのです。どうしても「使ってはいけない」ということが考えに出てきてしまうのです。「汚くなるので箱に入れとこうね」という言葉が、「使ってはいけない」に自分の中で変換されていたのです。その中には、怒り、憤り、寂しい気持ちなどが含まれていたために、簡単に意識を変えるだけでは、自分の考えを変えることはできませんでした。マインドフルネスのセッションをすることにより、自分の感覚を感じ、内面をみていくことで、ようやく自分の考えが自然と改まっていくのが感じられました。 


 この自分の経験からわかるのは、親からの何気ない一言というのは、子どもにとって人生を左右する言葉にもなるということです。私の場合は、初めて自分が欲しくて買ってもらったものに対してこういうことを言われたので、最初の一言が後々まで影響が出てしまったのです。こういったことは、広い意味でのトラウマとなり得ます。 


 もし自分の生きづらさが、親からの言動によって影響を受けていると感じるならそれは時間が経過しても改善していきません。まずは、そのことに対して「決して自分は悪くない」「自分のせいではない」としっかり気づくことです。その次に、自分のことを労いながら嫌だった感じを感じ「よく頑張ってきたね」「辛かったね」など、自分に声を掛けてあげることです。これは、過去の嫌だった感覚と決別することに役立ちます。私の場合で言えば、自分が嫌だった感覚を感じてあげて、自分のことを労いながら「パンダと遊びたかったね」「我慢して偉かったね」「辛かったね」というような言葉をかけてあげるということです。そして、最後に「これは親から受けたトラウマである」と認識することです。

 

 親兄弟から受けた言動は、なかなか気づき難いものです。気づいたとしても「まさか」とか「親や兄弟は自分のためにしてくれたから」と否定したい気持ちが出てきます。しかし、実際は親兄弟が原因なのです。そのことをしっかり認識することが、生きづらさからの解放の第一歩です。過去の親兄弟からの解放は、上記のような方法で行うことにより、自分の人生が開ける方向に導いてくれます。これが、自分の求めている生き方にも繋がっていきます。

 

 自分の生きづらさから解放されて、自分で素晴らしい人生を手に入れましょう。

 

信暁(2024年11月6日)