とどまる、感じる、ひらく

耐性領域を広げることで人生は楽になる

2025年03月06日 17:30

 耐性領域(耐性の窓)とは、「刺激を受けても過度に覚醒せず、自然に落ち着きに戻れるような最適な状態の範囲*」を示しています。ですから、「耐性領域の中にいる」とは、自分が心から安心・安全と感じることができ、落ち着いていられる状態だといえるでしょう。


 「自分が安心・安全を感じられる場所」は、いまの世の中では意外に少ないのかなぁと思います。ニュースを見れば、毎日事件や事故などの話題ばかりで、決して安心・安全と思えない環境に自分がいるのだと思わされてしまいがちだからです。そうなると、家から一歩外に出れば「もしかしたら、自分も危ない目にあうかも……」と自分を守るほうに、頭は行ってしまいます。防衛本能が強くなり、いつも戦闘態勢で緊張してまわりを見張っていることから、心は休まることはできません。そのような状態では、自分が安心・安全と思えることから遠ざかってしまいます。


 たとえば、満員電車の中にいるとします。ぎゅうぎゅう詰めで、知らない人に囲まれていると、どうしても緊張してしまいます。「変な人に絡まれないように」、女性なら「痴漢をされないように」と、いつも戦闘状態になっています。これって、まさに安心・安全とは真逆の状態です。心の状態は、落ち着くとは程遠いところにいるのです。


 自分が、安心・安全の場所にいることができない状況なら、その状況を見直し、落ち着かない環境を変える必要があります。これは、通勤環境や仕事場などという物理的な変化だけではなく、「無理した人間関係の中に身を置いていないか」など自分自身の内面(精神的な面)も見直す必要があります。

 物理的なことは比較的変えやすいかもしれませんが、人間関係はそう簡単には変わらない場合が多いです。転勤や転職で仕事場を変えても、人間関係の問題は変わらないということは往々にしてあります。私は、そういった人を嫌というほど見てきましたし、自分自身もそうでした。

 だからといって、無理した人間関係をやめるために、「あなたとはもう付き合いをやめる」と一方的に言ってしまえば、より軋轢を生みますし、自分自身にとっても良いことは一つもありません。


 では、どうすればいいのか?

 それは、自分の外側に向けていた意識を、内側に向けるということです。人間関係の問題は、往々にして過去における家族の問題から来ていることが多いです。

 たとえば、いつも何かに失敗するたびに「こんなこともできないのか!」と自分に怒りを向けてしまったり、「こんなことで失敗する自分はダメな人間だ…」と嘆いてしまったりすることはよくあるのではないでしょうか。それでなくても失敗してへこんでいるのに、なぜ、そんな自分をさらに自分で責めてしまうのでしょうか?

 このときに、自分の内面をみていくと、子どもの頃に失敗したとき、父親や母親、兄弟から「またこんなことして」とか「いつになったらちゃんとできるんや」みたいなことを言われていたことを思い出したりします。過去にそういったことを言われ続けていたことが、失敗する原因にもつながっていますし、家族に代わって自分にダメ出しをしてしまう理由でもあるのです。それが、自分を安心・安全の場所に留まらせることができない原因にもなっています。


 こういったことを思い出したときには、「つらかったね」「もう大丈夫だよ」と自分で自分にコンパッション(思いやり)を持って、優しい言葉をかけてあげてください。それだけでも、しだいに自分に優しくなっていきます。気がつくと自分を責めていないことにも気づくでしょう。

 もし、自分で自分に思いやりを向けることが難しければ、自分が信頼できる人にお願いして、自分が掛けてほしい言葉を言ってもらったり、自分がしてほしいことをしてもらったりするといいと思います。身近にそういった方がいなければ、私たちのような援助者に助けを求めてもらうとよいと思います。RERAっぽでも、コンパッションを重要視しています。


 何気ない日常のことで自分にしている自虐的なことを見ていくと、どれだけ自分が自分を虐めていたかがわかります。その「自分が自分を虐めていたこと」に気づくことが大事なのです。

 虐めていた自分を、他人に受け止めてもらうことを続けていると、気づいたときには、自分にダメ出しをすることがなくなっていることに気づきます。それだけではなく、自分を虐めていたときに出していた嫌な感情が出なくなります。そして、嫌な感情を出していたときに感じていた気持ちの高ぶりが静まることで楽になっている自分に気づきます。この楽になっている気持ちこそが、耐性領域が広がってきた証なのです。


 いったん、このことに気づけば、落ち着いた気持ちで自分のしていることを俯瞰的にみることができます。そうすれば、いろいろなことが気にならなくなり、ますます耐性領域が広がってくるのです。


 どのような環境でも安心・安全を感じられるように耐性領域を広げることが、自分が楽に人生を歩める近道なのです。


*出典:『レジリエンスを育む ポリヴェーガル理論による発達性トラウマの治療』(キャシー・L・ケイン/ステファン・J・テレール著 花岡ちぐさ・浅井咲子訳 岩崎学術出版社)


信暁(2025年3月6日)