「問題を追い出す」のをやめて、自分の内面を見つめてみよう
2025年04月12日 18:41
人は、何かの問題が起こると、それを何とかして自分の中から追い出そうとしてしまいます。そして、追い出しに成功すると、その後は何もなかったかのように普通の生活に戻ります。例えば「切符を間違えて買った」みたいなことは、降りる駅で精算すれば終わるので、それほど問題という意識はありません。しかし、仕事などで重大なミスをしたといったときは、早く忘れたいため、お酒を飲んだりして発散することで問題を追い出すということをしてしまいます。
大人になると問題の対処が上手くできるようにもなってきます。問題の大小にかかわらず、それに留まっていられないくらい、いろいろなことを次々とこなしていかないといけないため、余程のことがない限り忘れ去られていきます。そして、追い出し方も上手くなります。
しかし、この追い出すということが、後々になり問題となって出てくることがしばしばあります。それは、表面上では上手く追い出せたように見えていても、本当のところは、自分の中から追い出せたわけではなく、からだの内部には、少しのことでも記憶として蓄積されていくからです。
特に、「子どものときに失敗して怒られた」「学校でみんなの前で恥をかかされた」というような記憶がある場合、そのことと同じような失敗や問題が起きると、からだの記憶は強化されてしまいます。最初に起きた失敗のとき、その痛みを、家族や周りの大人からの愛情によって解放できていればよかったのですが、多くの場合、それができなかったことが原因となって、問題が起こる度に、記憶が強化されてしまうのです。
「怒られる」「恥をかかされる」といったことは、子どもにとって耐え難い苦しみとなってからだに記憶されます。こういったことが背景にあると、大人になってから起こる問題は、単なる問題ではなく、愛着の問題となっていることも少なくありません。
例えば、子どものときに上で挙げたようなことを経験したことがある人が、仕事場で上司によく怒られていたとします。あるとき、その人が社員全員の前で𠮟責されるということが起こりました。すると、そのことがトリガーとなって、過去に怒られた、恥をかかされたときのからだの記憶が瞬時に蘇り、より一層苦しみとなって出てきてしまうことがあるのです。そうなると、頭が真っ白になって、からだが固まってしまうとか、涙が出てくるなどといったことが起こるのです。
これは、単にそのとき叱責されたことに対してだけ、苦しんでいるのではないのです。「子どもの頃、失敗したときにいつも怒られた」「みんなの前で恥をかかされた」「いつも自分は怒られるばかりで愛してもらえなかった」といった過去の出来事による痛みの記憶が、自分のからだの中、そして無意識の中に出てきているからなのです。
このことに、気づければいいのですが、自分の中で何が起きているのかということを見ていかない限りは、なかなか気づくことができません。こういったとき、ほとんどの人は、お酒を飲む、友達に話す、運動をするなどによって、自分の苦しみを緩和して追い出しにかかります。あるいは、叱責されただけでも苦しいのに、さらに、うまく対処できない自分を責めて、より自分を追い込んでしまうといったこともよくあるのではないでしょうか。
こうしたことは愛着の問題も含んでいるため、自分が過去に愛されなかったということに気づき、自分で自分を癒してあげないと決して終わらないのです。気づくためには、「自分の内面をみる」ということをしないと気づくことはできません。そうしなければ、いつまで経っても苦しみから解放されることはないのです。
以前、私がセッションした方で、仕事中にみんなの前で上司から叱責され、その後、みんなから「仕事ができないヤツ」と見られているのではないかと思い始め、転職しようか悩んでいるという方がおられました。話しているうちに、小学校のとき、授業中にできなくて居残りで勉強させられたという記憶が出てきました。そのことは、家に帰って話すと怒られるので、家族には決して話さなかったそうです。それだけでなく「お母さんはお姉ちゃんばかり可愛がって、私は怒られてばかりいた」のだそうです。そして、「私もお母さんに褒めてもらいたかった」「優しくしてほしかった」という奥底に眠っている気持ちが出てきました。その気持ちが出てきて、しっかりと自分の気持ちを抱きしめてあげることにより、仕事場で上司に怒られることが少なくなり、仕事場の人間関係も良好になり、怒られることに対して苦しむこともなくなりました(この話はセッションした方に許可を取った上で書いています)。
何か問題が起こったとき、頭では大したことがないと思っても、そのとき起こったからだの感覚を感じないまま押し隠してしまうと、その感覚がしっかりとからだに記録されていくのです。
問題を追い出すことに慣れていると、大きな問題が起こったときでも追い出すことをしようとしますが、かえってからだの中の痛みの記憶が膨らんでいくばかりで、より一層苦しむことにもなります。
そうならないためにも、自分の内面をみるという訓練をすることが大事です。その方法は、静かな環境で、落ち着いた状態のとき、ゆっくりとからだを感じることから始めます。
自分の内面をみることにより、問題を対処することができるようになってきます。過去の愛着が原因であれば、自分を癒すこともできるようになってきます。
何か問題が起こったときは、追い出さずに自分の内面をみること。これが、苦しみからの解放へと繋がっていくのです。
信暁(2025年4月12日)