ちゃんとした自分
2025年05月08日 14:34
仕事や人間関係で壁にぶつかったとき、「ちゃんとした自分にならないと」という考えが出てくることがあります。
例えば、「こんなことも分からない自分はダメな自分だから、ダメでない自分になろう」「みんなと一緒にやっていくには、まだまだ自分は劣っているので頑張ろう」などという感じです。それによって、自己啓発本を読む、あるいは自己啓発のセミナーを受けるなどをするかもしれません。それによって、「あ~そうだったんだ」と自分自身の問題を指摘された感じがして、こうすれば自分は大丈夫なのだと思い「よし、頑張ろう」と前向きの気持ちにもなったりもします。
しかし、この気持ちは、長続きしません。また、何かあるとダメな自分が出てきてしまいます。このとき、「やっぱり自分は何をしてもダメなのかなぁ」と落ち込むことにもなります。
こういったことを繰り返していると、「自分は完璧にならなくては」という気持ちが強く出てきます。 そして、一つの考えが自分を支配してしまうことになっていきます。
自分が想像する理想的な「ちゃんとした自分」になれば、何の問題もなくなる。そうすれば、自分が好きになれるし、自分に自信が持てる……と。
「ちゃんとした自分」というのは、例えば、仕事で頭の回転が速く、何でも臨機応変に機転が利く、そして怒られることもなくみんなから一目置かれるという人間像だったりもします。このような完璧な人間であり続けるのは、ロボットでもない限り不可能ですが、ほとんどの人は、こういった考えに陥りやすいのです。
この理想が高ければ高いほど、理想通りにいかない自分自身に対して「ちゃんとした自分でいようとする自分」が容赦なく、自分を叱責してきます。それが繰り返されると「自己否定」が強くなり、いつしか「自分は何をしてもダメな人間」というレッテルを自分に貼ってしまいます。
そうなると今度は、自分がポジティブになれる何か別のものを探してしまいます。自分の得意なもの、自分が好きなものから選ぶことも多いです。しかし、「自己否定」的な考えが根底にあるため、自分が得意であったものが得意とは思えなくなったり、自分が好きであったものに興味を持てなくなったりということが出てきます。 なぜなら、 自分が得意なこと、好きなことをしているにも関わらず、ここでも人と比べてしまうからです。
そうなると、ますます自分を追い込んでしまうことになり、どうしようもなくなったあげくに「食べているときだけ何もかも忘れられる」と過食に走ってしまったり、お酒に逃げたり、自分を痛めつけるようにスポーツをするなどといったことが起こってきたりします。どのようなことをしても一時の快楽は得られますが、決して心からスッキリすることはないのです。
そして、そんなものに頼ってしまう自分に対して、弱い自分、情けない自分、どうしようもない自分などのネガティブな考えが一層強化されてしまい、より苦しい状況に自分を追い込むことになります。「自分は価値がない人間だ」「自分はどこに居ても必要とされていない人間だ」と思ってしまい、最悪の場合、「自分なんて存在しなくてもいいのだ」「居なくなってしまいたい」と思ってしまうようにもなります。
以前の自分が、まさにこういうことを繰り返し自分にダメ出しをしていました。時には、「自分は死んだほうがマシなのかも」という考えに囚われたこともあります。
本当に価値がないのでしょうか。必要とされていないのでしょうか。この考えは、元はといえば「ちゃんとした自分にならなければならない」という思いからすべてが始まっているのです。
「ちゃんとした自分」は、自分が作り上げた理想像です。もっと内面的なことを言うと、過去にそういった理想を作り上げなければ生きて来られなかった自分が作った自分像なのです。
「ちゃんとした自分」というのは、現実には存在しない自分の作り上げた妄想の中にあります。その妄想をしっかり取り除いてあげなければ、この負のループを抜け出せずいつまでもぐるぐる同じところを回り続けます。
こういったことは、頭で考え、原因を探り、理解して、対処しようとすることから起こります。しかし、過去の記憶は頭というより感覚としてからだに刻み込まれています。だから、頭で対処しようと思っても限界があるのです。からだに残っている感覚をマインドフルネスなどで感じて出してあげることが必要となってきます。からだの感覚を感じ、過去の記憶を出してあげることこそが、幻想を取り除くことに繋がります。
もともと「ちゃんとした自分」はいつも自分とともにあったのです。ただ、それを自分の理想としなければいけなかった幻想が邪魔をしていただけなのです。「ちゃんとした自分」は、完璧である必要はありません。失敗したり、できないことがあったりしても問題はないのです。
「ちゃんとした自分」とは、理想の自分ではなく、まさに「いま・ここ」に生きている、ありのままの自分自身なのです。
いままでのように頭で考えることを手放し、マインドフルネスなどでからだの感覚に意識を向け、からだからの声に耳を傾けてみましょう。そうすることによって、いま生きている自分が「ちゃんとした自分」なのだと心から腑に落ちてきます。
信暁(2025年5月8日)